息吹-Presence in a Sigh-

本作品は骨伝導技術によって、耳ではなく体で音を知覚するサウンドオブジェです。
鑑賞者はオブジェに抱きつきその頂点にあごをのせると、振動があごの骨を伝わって音を知覚することができます。
本作品には初期に制作したVer.1と、後にそのコンセプトを踏襲して再制作したVer.2とがあります。
Ver.1では物体の圧倒的な存在感や物質感を重視して縄のテクスチャーを活かしたオブジェでした。
これに対してVer.2ではよりモチーフの持つ意味性を重視し、本物の石を使う事で自然素材独特の質感を活かした作品となりました。

雄峯菊仙

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息吹
山の息吹、森の息吹など、私たちはさまざまなものの息吹を感じ取っています。
ときには春の息吹、自然の息吹といった現象や概念から感じ取ることもあります。
「息吹」とは、たとえとらえようのない対象であっても、人がその存在を認めたときに表層化するものなのかもしれません。
余談ですが、外国の方にはこの「息吹」について説明するのが大変でした。
「息吹」という言葉が単に「呼吸する(breath、sigh)」という意味を指すものではないからです。
おそらく「息吹」とはアニミズムや、神道をベースにしている日本人特有の概念のひとつなのだと思います。

骨伝導
たとえば、道ばたの片隅に転がっているただの石ころであっても、確かにそこに存在しています。
しかしその存在に気づく人はあまりいないものです。だから多くの人にとって、その石は「存在しないもの」となっています。
ならばそんな石ころからも存在の証として「息吹」を鑑賞者へ明示的に感じさせることが出来ないか。
これが本作品の原点でした。
そして本作品では音を息吹の象徴として記号的に扱うことにしました。
この世の中の生き物はみな呼吸をして生きていますし、その体内には鼓動や呼吸音など、命の営みとしてのさまざまな音が聞こえてきます。
一見視覚的には何もしていないようでも、その存在を感じさせるものが内側には潜んでいます。
なかでも骨伝導技術には、身体のある程度特定された部位に接触しなければ知覚できないという特性がありました。
これにより、鑑賞者には鑑賞の為の何らかの行為(本作ではオブジェに抱きつく行為)が必要となります。
つまり、人間側が物の方へ歩みよることではじめて音(=息吹)を知覚できるのです。


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